【2024年最新版】医療広告ガイドラインについてわかりやすく解説
近年、美容医療サービスをはじめとしたクリニックや病院、歯科など、医療に携わる業種の広告や比較サイトをみかけることが多くなりました。
平成29年には美容医療サービスに関するトラブルを発端とした、医療に関する広告規制の見直しを含む医療法の改正が行われ広告だけでなく誘引を意図したウェブサイト等による情報提供も規制の対象となり、厳しく広告の審査が行われています。
この記事では、クリニックや病院など、医療に携わる業種の広告掲載を検討中の方向けに広告の審査に関わる「医療広告ガイドライン」について解説します。
目次
医療広告ガイドラインとは
「医療広告ガイドライン」とは厚生労働省の公開する、病院等医療に関する広告の指針のことです。
一般的にどの分野であっても、各媒体ごとに広告の審査があります。
特に医療は人の生命に関わるサービスであり、不当な広告により施術内容や金額面でユーザーの受ける被害が大きいとの観点から、他分野よりも厳しい広告の審査基準が設けられています。
広告だけでなく医療機関のウェブサイトでも、表現によっては是正命令や罰則等の対象となる可能性があるため、ガイドラインに沿った内容の広告やウェブサイトを作成するようにしましょう。
違反するとどうなるのか?
広告違反と判断された場合、対象の広告掲載が出来なくなるだけでなく広告アカウントやウェブサイト自体が停止されてしまい、全ての広告がストップしてしまうことが考えられます。
また場合によっては行政指導による広告の中止や内容の訂正を求められることがあります。
行政指導に従わない場合や違反を繰り返すなど悪質性が認められた場合、6月以下の懲役又は 30万円以下の罰金、最悪の場合病院または診療所の開設の許可の取り消しもあり得るため注意が必要です。
参考:医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針
禁止されている広告について
「広告やウェブサイトに載っている金額よりも実際は高い請求をされた」「思っていた施術内容ではなかった」など、意図せず記載した表現や事実に基づくデータだとしても、ユーザーに誤解を与えてしまう場合は違反の対象となることがあります。
これから触れる5つの広告は規制の対象となるため、広告やウェブサイトを作成する際の参考にしてください。
・比較優良広告
・誇大広告
・公序良俗に反する内容の広告
・患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告
・治療等の内容または効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前または後の写真等の広告
比較優良広告
医療広告ガイドラインでは、他院と比較し優れている旨の記載は基本的には認められていません。
「最高」「県内一」「日本一」などの最上級表現
▽具体例
「最高の医療」
「県内一の医師数」
「日本一の実績」
客観的な事実であったとしても、禁止される表現に該当します。
他の病院又は診療所と比較して優良である旨の表現
▽具体例
・金額の比較
「□□医院50,000円、△△医院40,000円、当院35,000円」
・結果的に他院と比較し優良である旨の記載
「県内でも有数の治療実績」
・他院を誹謗することで他院よりも優良である内容となっている記載
「他院では未熟な医師が質の低い医療を提供しており、大変危険です」
他の医療機関と自らを比較の対象とし、施設の規模、人員配置、提供する医療の内容等について、自らの病院等が他の医療機関よりも優良である旨の記載は認められていません。
なお、優秀性については表記可能な場合もあります。ただし、他院を誹謗・中傷するものではないこと、著しく誤認を与える表現でないことを前提とします。裏付けとなる合理的な根拠があり、客観的に実証できる場合には出典・調査の実施主体・調査の範囲・実施時期等を併記するようにしましょう。
著名人との関係性を強調した表現
▽具体例
「モデルの〇〇〇さんが来院されました」
「スポーツ選手の〇〇さん来院時に撮影」
芸能人やスポーツ選手、インフルエンサーなど著名人との関連性を強調する表現は、ユーザーに対して他の医療機関より著しく優れているとの誤認を与える可能性があります。
これらはユーザーを不当に誘引するおそれがある表現とみなされ規制の対象となっています。
誇大広告
提供する医療の内容等について、事実を不当に誇張して表現していたり、人に誤認を与える可能性のある広告は認められていません。
虚偽でなくても、広告を見たユーザーが感じる「印象」や「期待感」と実際の内容に相違がある場合は規制の対象となることがあります。
参考ページ:1.広告が禁止される事例(4)(8)~(13) (9ページ、13~20ページ)
医療広告ガイドラインを遵守している旨を強調した表現
本来ガイドラインを遵守することは特段強調すべきことではないとの考えから、文字の色や大きさ・太さによって強調するような表現は認められていません。
▽悪い例
「医療広告ガイドラインの遵守について 厚生労働省より2018年6月に施行された”医療広告ガイドライン”を遵守したサイトを作成しております。」
▽改善例
「当院のホームページは、厚生労働省より2018年6月に施行された「医療広告ガイドライン」を遵守して作成しております。(ページ下部に記載)」
※過度に強調することなくウェブサイトの下部等に記載することは認められています。
施設について誤認させる広告(〇〇センターの表記)
「〇〇〇インプラントセンター」など医療機関の名称としてセンターを記載することは認められていません。
※法令の規定又は国の定める事業を実施する病院又は診療所であるものとして、「救命救急センター」「休日夜間急患センター」「総合周産期母子医療センター」等、一定の医療を担う医療機関である場合、または当該医療機関が当該診療について、地域における中核的な機能や役割を担っていると都道府県等が認める場合はこの限りではありません。
※病院の院内掲示であれば、「透析センター」等と掲示することは可能です。
医療の内容等について誤認させる広告
▽具体例1
医療脱毛のプランにおける「無制限」「し放題」「回数制限なく」等の表現
実際には毛周期等の関係で実質的には契約期間中において受けられる脱毛の回数は限られるとの考えから、このような表現は認められていません。
▽具体例2
「最適な医療」「最先端の医療 〇〇治療」
必ずしも虚偽とは言いきれず、医学的、社会的な常識の範囲で、事実と認められるものであれば禁止される表現ではありませんが、誇張した表現とみなされ掲載が認められない場合が多いです。
▽具体例3
「痩せホルモン(※GLP-1製剤の効果として表現)」
提供する医療の内容等について事実を不当に誇張して表現していると判断されるため、使用不可となります。
処方箋医薬品等を必ず受け取れると期待させる広告
オンライン診療などにおいて、医師の診察の有無、診察後の判断によってを処方できない場合があるにもかかわらず、いかなる場合でも処方箋を受け取れると誤解を与える表現は禁止されています。
また、処方箋受け取りまでの流れをウェブサイト上に記載する場合、最低限「医師の判断によりお薬を処方できない場合があります」等の文言を入れる必要があります。
他にも初診での処方が禁止されている医薬品や、「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」を処方する場合は、オンライン診療において初診では処方できない旨、または、オンライン診療において処方できない場合がある旨を明記することが望ましいとされています。
▽悪い例
【お電話】→【ご指定の薬局に処方箋をFAX】→【すぐに医薬品の受け取り可能】
▽改善例
【お電話】→【オンラインで医師が診察】→【ご指定の薬局に処方箋をFAX】→【すぐに医薬品の受け取り可能】※「医師の判断によりお薬を処方できない場合があります」
科学的根拠が乏しい情報による誘導
科学的な根拠が乏しい情報であるにもかかわらず、特定の症状に関するリスク、又は手術や処置等の有効性を強調することにより、医療機関への受診や手術へ誘導するものは、誇大広告として取り扱うこと、とされています。
▽具体例1
「ストレスを感じている方にはがんのリスクがあります。がんを発生させないためには、〇〇療法を利用したストレスの原因の明確化と軽減が必要です。」
▽具体例2
「〇〇療法は免疫機能や細胞を活性化し、【悪性腫瘍の治療】【ウイルス性疾患の治療】【アンチエイジング】【ダイエット】…など様々な効果を引き出します。」
公序良俗に反する内容の広告
わいせつ若しくは残虐な図画や映像又は差別を助長する表現等を使用した広告など、公序良俗に反する内容の広告を意味するものであり、医療に関する広告としては認められないとされています。
患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告
簡単にいうと「口コミ」のことです。
患者や医院のスタッフ自身の体験談だったとしても、広告としての使用(医療機関への誘引を目的として紹介すること)は認められていません。
これは、個人の状態により感想が異なりユーザーの誤解を与える可能性があるため、とされています。
参考ページ:1.広告が禁止される事例(14)~(19) (21~26ページ)
治療等の内容または効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前または後の写真等の広告
「ビフォーアフター写真」がこれに該当します。
全ての「ビフォーアフター写真」が禁止されているわけではなく、前後の写真のみであり治療の内容や期間・費用・リスク・副作用など、治療に関する説明がないものが規制の対象となります。
また「術前のみ」「術後のみ」の写真やイラストであったとしても、治療内容、費用等に関する事項や、治療等の主なリスク、副作用等に関する事項等の詳細な情報を記載する必要があります。
規制の範囲について
ガイドラインで記載されている広告の定義は、次の①及び②のいずれの要件も満たす場合に該当するとされています。
① 患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)
② 医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)
簡単に説明すると、特定の病院や診療所への集客を目的(誘引性のある)とした各媒体全てを指します。
具体的にはテレビやパンフレット、チラシ、ダイレクトメール、FAX、ポスター、看板、Eメール、ウェブサイト、交通広告、web広告、ブログ、SNSなどが該当します。
また、新聞の記事、医療に関する書籍や患者等が自ら掲載する体験談、手記等、一見広告ではないような媒体であっても、連絡先が記載されており「○○研究会」や特定の医療機関(複数の場合も含む。)をあっせん等していることが認められる場合は、広告として取り扱われる可能性がありますので注意が必要です。
広告と認められた場合、医療広告ガイドラインに基づき規制の対象となります。
参考ページ:医療広告ガイドライン 第2-1(2~3ページ)
限定解除について
広告と見なされた場合、医療広告ガイドラインによってウェブサイトや広告に記載できる内容は大幅に限定されますが、一定の要件を満たすことで規制を受ける範囲を一部免除(限定解除)される場合があります。
限定解除の条件
上に挙げたようにウェブサイトやパンフレットなど全ての広告が医療広告ガイドラインの対象であるかというと、そうではありません。
医療広告ガイドラインでは限定解除の要件として“以下の①~④のいずれも満たした場合とする。ただし、③及び④については自由診療について情報を提供する場合に限る”としています。
① 医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること
② 表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載する
ことその他の方法により明示すること
③ 自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること
④ 自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること
①は患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイト、患者の求めに応じて送付するパンフレットやメルマガ等などが該当します。ただし、検索広告やバナー広告など、検索サイトの運営会社に対して費用を支払うことによって意図的に検索結果として上位に表示される状態にしたものなどは、広告となります。
②は電話番号・メールアドレス等の連絡先です。
限定解除が適用されると
記載可能となる事項は下記の通りです。
・法令上の根拠のない診療科名
(膠原病科、甲状腺科、認知症科、化学療法科、糖尿病科、新生児科等)
これらは限定解除の適応となった場合に限り記載が可能です。
・厚生労働大臣が届出を受理していない専門性資格
(□□学会認定、□□専門医、△△学会認定、△△認定医、〇〇学会認定、〇〇認定医等
注釈(作成者注:厚生労働大臣が届出を受理していない専門性資格)を記載の上で記載が可能となります。
・特定医師の手術実績
(〇〇院長による〇〇手術 2020年 50件、2021年 55件、2023年 63件等)
・当院のメディア掲載情報
・ビフォーアフター
(規定に沿って詳細を記載する必要があります。)
・治療等の内容
(治療内容について、治療の流れ・期間・回数・標準的な費用(最適金額~最高金額までを記載)・主なリスクや副作用など詳細に記載する必要があります)
限定解除されてもNGな表現
限定解除されても関係なく規制されうる表現には次のようなものがあります。
・内容が虚偽にわたる広告
(絶対安全な手術、厚生労働省の認可した○○専門医、加工・修正した術前術後の写真等の掲載、〇%の満足度など)
・比較優良広告
・誇大広告
・公序良俗に反する内容の広告
・死亡率、術後生存率等
・未承認医薬品(海外の医薬品やいわゆる健康食品等)による治療の内容
・専門外来
など
参考ページ:医療広告ガイドライン 第3(5~6ページ)
医療広告ガイドラインを遵守するためには
ガイドラインは不定期に更新されるため、改訂情報がないかはガイドラインを定期的に確認する必要があります。
専門的な知識が必要となるため、広告やウェブサイトを作成する際は、チェックリストなどを用いて確認するのが良いでしょう。
まとめ
医療広告ガイドラインは患者等の利用者保護の観点から作成されているため、ユーザー目線に立った広告の表現が求められます。
一方で国の定めるガイドラインと各媒体の広告審査がイコールではなく、媒体によっては規定に反していないか疑問の残る広告を見かけることがあります。媒体側の審査は機械的に行われるため、表現方法によっては審査の抜け道をくぐってしまっている広告が存在しているのが現状です。
しかし、そういった広告は掲載途中でアカウントが停止になる可能性や、国の規定違反となり処罰の対象となる可能性があります。また後々ユーザーにマイナスイメージを与えかねないため、規定に沿った表現方法を遵守することをおすすめします。
虚偽の内容はもちろん、事実であっても表現方法によっては規制の対象となる可能性があるため、具体的な内容を理解した上で不安な時は専門家に相談するのが良いでしょう。