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2026.05.08 更新
2026.05.08 更新

愛媛にオペレーション業務を移管し1年、育成と品質担保は同居できるか?

Written By
小林 大輔

代表取締役

はじめに

前回の組織設計の記事から1年と少し。続編というには間が空きすぎたが、その続きとして愛媛県松山市に作った地方拠点の話です。

数字を先に出すと、松山オペレーションセンターの稼働は1年でだいたい4倍ちょっと、コンサル部門合計の稼働は約3割減、1人あたりの平均勤務時間もわずかに短くなって、売上・粗利益は前年比+8%。

…と並べると順調そうに聞こえるのだが、実は重要な課題もまた道半ばではあるので「うまくいきました」報告というよりは、拠点を作って何が起きて、何がまだ宿題として残ってるのか、という記事を書きました。

前回の続き — 「育成」が品質改善の足を引っ張っていた

前回の分業の記事で書いたとおり、コンサルとオペレーションを分けたわけだが、そのときオペレーションチームに「育成」という役割がもう一つ乗っていた。新人を受け入れて、1年くらいかけて広告運用の基礎を一通り叩き込んで、そのあとコンサル側に異動させる。育成という機能自体は、これでうまく回ってはいた。

ただ、よく考えるとこの仕組みだと、オペレーションの品質は1年ごとにリセットされるようなものなのである。覚えた人は出ていく、新人が入ってくる、これを毎年繰り返す。1年単位で見ると人材は育っているのだが、オペレーションという機能の品質を中長期で積み上げる、ということが構造的にできていなかった。

これが、前記事のあとに残っていた一番大きな宿題である。

なぜ「地方拠点」だったのか

選択肢はいくつかあった。育成と品質を切り分けるだけなら、都内で2チームに分けるという手もあったし、完全アウトソースという手もあったし、実は他にもいくつかの選択肢があったのだが、、、

それでも地方拠点という解にしたのは、長く働いてもらえる人を長く働ける環境で集めたかったからである。育成責任を切り離す代わりに、品質を長期で積み上げていく組織にしたい。都内で人材を確保し続けるコストの高さを考えても、都内2チーム案は現実的ではないなというのもあった。我々の強みである機動力・スピード・融通の利きやすさは犠牲にしたくない、という制約のなかで、地方拠点というのが残った、という流れだ。

47都道府県を全部調べて、最後に残ったのが愛媛だった

24年の秋から、47都道府県の雇用情勢、自治体の企業誘致への積極性、広告会社の進出状況を片っ端から調べた。最終候補に残ったのは、秋田・島根・長野・徳島・高知・愛媛・宮城の7県だった。

ここから愛媛・松山に決めた理由は3つある。

離職率の低さ

愛媛は日本のなかでもっとも離職率が低い県のひとつなのだが、長期で品質を積み上げる前提の拠点と、ここはとても相性がいい。

自治体の積極性

これは資料の数字ではなくて、実際にやり取りした体感の話で、愛媛県と松山市、双方の企業誘致への姿勢が圧倒的に積極的だった。立ち上げ時のフォローアップも、想像していたものを大きく超えていた。

街そのものの魅力

これは数字に出ないが、ここで働く人の生活の質を考えると無視できない要素だ。視察に行ったときの「ここなら長く働けそう」という感覚、これは案外馬鹿にならない。

松山城からの景観

25年の頭には県・市双方との調整も完了し、日経の記事にも取り上げていただいて、25年4月、操業を開始しました。

▼記事はこちら▼

オフィスが間に合わなかった話

ここから少し恥ずかしい話になる。

24年秋からの計画開始から操業開始まで半年弱、という急ピッチで進めた結果、4月の操業開始時点でオフィスの内装と什器搬入が間に合わなかった。

仕方ないので、最初のひと月は松山市駅前のシェアオフィスでスタートした。「さぁ4月から松山で立ち上げだ」と意気込んで現地に乗り込んだら、自分たちのオフィスはまだ工事中である。その後ひと月ほどで現在のオフィスに移転している。

松山オフィスの執務エリア

採用のほうは、ある程度苦戦するだろうと思っていたわりに、結論からいえばIndeedとハローワークの2チャネルだけで十分だった。とくにIndeedが強かった。未経験OKを基本にして、これまで都内で使っていた新人向けのトレーニングカリキュラムをそのまま松山でも展開、スキル習得は順調で、いまは10名弱がオペレーション業務を担っている。業務範囲もこれまで通り、入稿・レポートを中心としたオペ業務だ。

東京-愛媛のラグをどう埋めるか

懸念のひとつは、東京-愛媛間のオンラインコミュニケーションだった。これまで物理的に近くで気軽に確認できたものを、リモート前提に切り替える。どこまで意思疎通できるのか、というのが事前の心配事ではあった。

結論からいうと、業務上の意思疎通自体は問題なく進んだ。もともとテレワークの実績があったというのが大きくて、ここはあまりに普通に動いてしまったので、書くこともあまりない。

ただ、ゼロかというとそうでもなくて、「東京の担当者にちょっと聞けば解決する」レベルの疑問が気軽に聞けず、松山側で「これどうしたらいいんだろう」と相談する時間が発生したり、双方どちらかが離席していてリアルタイムに繋がらなかったり、みたいな小さなラグはまだ残っている。

このラグを極力減らしたくて、いまは写真のようにオンラインで常時接続したまま、ちょっと聞きたいときも画面越しにすぐ確認をとる、という運用を続けている。完璧ではないが、いまのところこれが一番効いている。

松山オフィスと常に繋いでい、コミュニケーション用のPC(東京オフィス)

1年経って、こうなった

操業から1年経った26年4月の状況を大づかみに書くと、

松山オペセンの稼働は4倍強に伸びて、一方でコンサル部門の合計稼働は約3割減った。全社の1人あたり1日の平均勤務時間もわずかに短くなって、売上・粗利益は前年比+8%(これは目標に届いていない、かなしい)。

オペレーションは松山に集約されて、コンサル側は本来の仕事に集中できる時間が増えた、という構造に切り替わった、ということになる。

数字は増え、工数は減り、残業も減る。一見すると言うことなしに見える。
けれど実は、そう簡単な話ではない。残った宿題が2つある。

宿題① — オペレーション品質を、どう見える化するか

地方拠点を作った当初の目的は、育成責任を切り離す代わりに、より高い品質を長期で積み上げるところにあった。

ところが「品質」というのは曖昧な言葉で、放っておくと改善も計測もできない。我々の強みであるはずの機動力・スピード・融通の利きやすさを犠牲にせずに品質を上げる、というやつは、まだまだ道半ばだ。

この1年でやってよかったと言えるのは、依頼業務数・業務ミス率・納期遅延率・部分納品率・依頼リジェクト率を、ちゃんと計測して目標を立てて追いかけ始めた、ということ。

人間がやる業務である以上ミスはつきものなのだが、新卒くらいの時に口を酸っぱくして言われる、かの有名なハインリッヒさんに言わせると、表に出てきたミス(つまり顧客にご迷惑をおかけしてしまったやつ)の手前には、その何倍ものヒヤリとした事象があるはずだ、ということになる。

これがいかにも厄介で、オペとコンサル間で「ちょっとここ間違ってた」「コンサル側ですぐ気づいて直した」みたいな軽微なやり取りは、これまで誰もちゃんと計測していなかった。表に出るのは事故になったやつだけ、というのは、おそらくどこの運用会社でも起きていることだと思う。

ここを掴まえに行こう!ということで、社内で発覚して社内で潰したミス・遅延・部分納品・リジェクトを定量的に拾うために、簡易的なChrome拡張を自社で作って計測している。本格的に動き始めたのが昨年の冬くらいで、計測開始以降、処理量が増えているなかでミス率は半減した。一定の効果は出始めている。数字を見えるようにして目標を追いかける、というのは結局当たり前のことなのだが、当たり前のことほどやれていない、というのが正直なところ。

ひとつ難しいのは、こうやって問題を見える化して定量で追いかけるやり方に対して、一定の拒否感を示すメンバーがいる、ということ。これは経営側として注意が必要なのだが、ただ「あなたの仕事はあなたの人格ではない(経営者を除く)」という大前提を胸に、結果として出てくる数字は正面から受け止めて改善していきたい、と思っている。

宿題② — AI化の波の中で、地方拠点はどうあるべきか

もうひとつの宿題、というよりも業界全体に突きつけられている問題が、広告運用業務のAIによる代替である。とくにオペレーション業務は、もっとも代替されやすいところに分類される。

正直、私はこのことを地方拠点の検討を始めた24年秋の時点で、もう気づいてしまっていた。気づきながら松山の拠点を作っているところがある。そして松山が機能し始めたいま、これが目の前で現実化している。社内でもAIを使った業務工数の圧縮や、簡単な業務ツールをAIが自前で作ってしまう、ということが起きていて、昨日の業務が今日にはなくなる、という感じが本当にある。

この論点はあまりにもデカい。オペ業務がどうこうではなく、広告運用という仕事そのものに対する疑義として存在しているレベルの話なので、ここで全部書ききるのはやめておく(これはこれで別に書きたい)。

ただ、地方拠点と今後という話に絞っていえば、すべてが自動化/AI化されるかというと、私はそうは思っていない。最終確認や目視確認、調整・設定・集計みたいな面倒な業務の多くはAIや自動化に置き換わっていくが、我々の規模感の仕事において人手がゼロになることはない。

そしてそれよりも、より上流の判断・調整・運用、顧客や仕入れ先とのエンゲージメントや決断、というあたりは、まだ人間がやるべき仕事として残っているし、むしろここに我々がやるべきことが集中していく、と見ている。

松山の拠点は、効率化・AI化されてなお残る人手作業を担うだけではなくて、いまの業務よりも2つも3つも上流の業務を担っていく、という構想で動かしている。これからもっと発展させていくつもりだ。

おわりに

前回の記事では、広告運用という業務をコンサル業務とオペレーション業務に分けた、という話を書いた。あれは要するに業務の分業である。一方で今回やったのは、そのオペレーション業務という箱のなかに同居していた「育成」と「品質」を構造的に分けた、という話だった。

育成という機能、品質という機能、こういう業務よりも一段高いレイヤーでも、分業は必要であるとともに、「品質担保と教育という二つの機能をひとつの箱で同時に追いかけることが極めて難しかった」という一旦の結論ではある。

ということで、分業の次の打ち手として地方拠点を選んで、47都道府県を調べて松山に決めて、ゼロから採用と立ち上げをやって、1年でこのくらいの結果と、品質とAIという2つの宿題が見えてきた、というところまでは来ました。この後の状況についても、また記事に書いていきます。

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小林 大輔

代表取締役

2012年に独立、プライムナンバーズ株式会社を設立。「顧客の業種・業態に応じて運用状況を分析し、その結果をもとに目標達成に向けた戦略的な改善策を提案する」という方針を徹底し、大手企業から中堅・中小企業までさまざまな業種のアカウントを運用し、成果を伸ばすことに注力している。